路銀を置いてゆけ。

「ま、そんなわけで乾杯!」
「なにがそんなわけなのかわかんないですけど、乾杯」
「しかし、あれだな。加護ちゃんは菩薩だね、菩薩」
「いきなり何言ってんですか?」
「いや、だってさ、モニターに大写しになるたびに、ああ、慈愛に溢れてるってカオしてんのよ、これが」
「休みにこんな高崎まで呼び出しといて、またモー娘。の話ですか」
「なんだよ! じゃあ、サイトウキネンの話をしてやるよ! チャイコの5番のロストロポーヴィチのテンポの遅さ! やっぱあれは「巨匠」じゃないと出せない部分だよなあ」
(以下サイトウキネンの話題20分)
「で、(とDVDパンフを取り出し)この中で誰が一番かわいい?」
「唐突過ぎますよ。さっきまでぜんぜん違う話だったじゃないですか」
「早く選べよ。なんなら辻加護も含めた中から選んでいいよ」
「え〜、じゃあ、これ。(と徳永さんを指差す)」
「おっ! たぶん……徳永千奈美っていう娘だよ」
「たぶんってなんですか。ウエダさんだって分かってないじゃないですか」
「だからさ、だからこそお前にはベリーズ工房のファンになっていただいてな、俺らに魅力を教えてほしい」
「そんなのを人に押し付けないでくださいよ」
「しかし、お前は聞くたびに違う娘を選ぶよな。信念ってものがないのか、まったく」
「毎度毎度おんなじ質問をするほうが悪いと思いますけどね」
「あ、じゃあこの嗣永桃子って娘がいいよ、この娘にしな。すごかったんだから。今日のコンサートで、もうフリも歌も完璧に「アイドル」って感じにガッチリ固まっててな。俺なんか三回くらい笑っちゃたもの」
「なんですか笑うって」
「あ、それとも菅谷梨沙子さんもいいかもよ。この娘は逆に不安定感満載で見てて飽きないよ。歌いだすたびにドキドキできるぜ」
「そんなのヤですよ」
「でもねえ、やっぱダブルユーの二人のパフォーマンスは凄いから見たほうがいいって。あ、デコボコセブンティーンはキャプテン公演のほうが演出的にはよかったからそっちをオススメするよ」
「まあ、どっちも見るつもりないですけどね」
「やっぱどっちかが欠けてるところにベリーズのメンバーが入るって構成は聴いててイラつく感じは否めないよね。『抱きしめないで』で辻ちゃんと夏焼さんみたいな組み合わせとかな。あれならロボキッスで途中から全く違う二人になったほうがまだ許せると思ったね」
「ちょっと、話聞いてますか?」
「『渚の「・・・」』がまだ聴けたのは、元がカバーってのと秋元康のテイストに継永さんの持ち味がしっくりきたからってのもあるだろうね」
「ウエダさん?」
「しかし、あの加護さんと嗣永さんの画はまさに菩薩と孫悟空ってかんじで面白かったなあ」
「人の話を聞いてくださいよ」
「だから、一回でいいからコンサートに来てみなよ。最近は無駄に群馬の公演が多いんだし」
「行きません」
「盛り上がるぜ」
「行きません」
「今日だって、『すっぺしゃるジェネレーション』とかすごかったんだから。もう、踊ってる隣の人がバシバシ当たってくる量も三倍だよ」
「いやですよ、そんなの」
「楽しいよ」
「楽しいのはウエダさんだけです」
「文字通り肌で盛り上がりを感じられるぜ。気にしなきゃどうってことないよ」
「気になりますよ、そんなの」
「……やっぱだまされないか」
「当たり前です」
(以下オーケストラ曲の吹奏楽編曲版の是非などの話題)