一度遊びに来てよ

紺野先輩が卒業してから、もう、一年が経ちました。
あれから一年なんですね、早いものです。最後の追いコン、覚えていますか? なんだかんだで六次会まで。最後には、昇ったばかりの朝日が真横から射し込むガストで、結局二人きりになっちゃいましたね。そんな時まで紺野先輩はケーキを食べてましたっけ。
私が入学して、紺野先輩にはじめて会ったときは……ごめんなさい、正直、よく覚えていないんです。でも、はじめの頃は、紺野先輩自身よりも周りの友達(私にとっては先輩ですけど)から紺野先輩の話をよく聞きました。紺野先輩が入学したてでトロンボーンを買うときに、楽器屋さんに二ヶ月間毎日通って、お店に置いてあるもの全部吹き比べて、迷いに迷って結局店員さんが言うとおりにしたってのはかなり有名な話でした。「バックにしようとすると……ゲッツェンがよく見えるんだよねぇ」は一時期サークルの流行語になったとか。でも、この話には実は続きがあって、楽器を買ってから更に一ヶ月間マウスピース選びをしたっていうのを後で紺野先輩から聞いて、またまたビックリ!!でした。
一度、大切な友達なんだ、と言って海外留学している友達の写真を見せてくれたこともありましたっけ。コーンロウで髪がレインボーカラーのかなりド派手な感じの方だったけど、ダンスを勉強しててね、頑張ってるんだぁ、と話したときの紺野先輩のやさしい表情がなんとなく印象に残ってて……
紺野先輩はとても練習してたって思い出があります。紺野先輩は真面目で授業もサボらずしっかり出てたのに、サークル棟に行くといつも紺野先輩がいるって感じでした。トロンボーンはずっと昔にやってたんだけど、大学から始めたみたいなものだから、と言っていたのも覚えています。確かに、すごく大きな音でガンガン吹いたりとかハイトーンをバシバシ当てる感じではなかったけれど、紺野先輩の音はとても暖かくて、丁寧でした。
そう、紺野先輩は絶対に適当に流して吹いてたことは無かったです。ミスったり、音程ずれちゃったりしたとしても、紺野先輩はいつも一音一音を「きちんと」吹いていました。それは紺野先輩自身の人柄も同じです。
あのガストの明け方、私がサークル辞めたい、なんか辛いって話になったとき、紺野先輩が、でもね、そうやっていっぱい悩めることも、すごく幸せなことなんだよ、今は辛いかも知れないけれど頑張れる目標があるんなら、その人はきっと幸せなんだよ、って言ってくれた言葉が、今も私の中で、大切な大切なことばです。
紺野先輩、卒業してお忙しいかもしれませんが、一度遊びに来てください。
キャンパスには、紺野先輩が好きだった、さくらが満開です。